UP
人的資本経営が求められる時代の健康経営~両者一体の取組みを~
目次
人的資本経営が求められる時代の健康経営~両者一体の取組みを~

人的資本経営という言葉が聞かれるようになって久しくなりました。健康経営とあわせて人的資本経営にも取り組んでいる企業もあるのではないでしょうか。
健康経営は人材という資本の基盤である健康への戦略的な投資と実践であり、人的資本経営の一環といえます。健康経営を人的資本経営の中に位置付けて一体で取り組むことが肝要です。
本記事では、今年3月に改訂された「人的資本可視化指針」の改訂ポイントを踏まえて、人的資本経営が求められる時代における健康経営の進め方の要点を解説します。
【関連資料】本質的な健康経営を進めるための3つのポイント
【関連資料】組織を動かす3つの成功事例 健康経営の壁と突破口
人的資本経営と健康経営との関わり
人的資本経営とは、従来「コスト」と捉えていた「人材」を、価値創造の源泉である「資本」と捉え、その力を引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営の在り方です。※1
一方、健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する経営のことであり、従業員の活力向上や生産性の向上といった組織の活性化が結果的に業績向上や株価向上につながると期待されています。※2
このように、人的資本経営と健康経営は、いずれも人材への戦略的な投資と実践を行い、その先に企業価値の向上を見据えています。
両者の違いはスコープにあります。
人的資本経営は、人材の採用や配置・育成を通じた人材ポートフォリオの構築、多様な従業員が能力を発揮して組織が活性化されるための、従業員の健康保持・増進、希望する働き方やキャリアの実現、従業員エンゲージメントの向上、好ましい企業文化・組織風土づくりまで、広範囲にわたります。企業の中長期的な価値向上のための人的資本投資として人材マネジメント全体を経営戦略と連動させる包括的な概念です。
健康経営は、従業員の健康保持・増進を経営課題と捉え、健康投資を通じてアブセンティーイズムやプレゼンティーイズムの低減、生産性向上などを図ることを主たる目的とします。健康に焦点を当てた、より実践的・具体的なアプローチといえます。
したがって、人的資本経営と健康経営は相異なる取組みというわけではなく、包含関係にあると考えられます。従業員の健康という基盤があってはじめて、人材育成や多様な人材の能力発揮・活躍などが可能になることから、健康経営は人的資本経営を実現するうえで重要な実践領域と位置付けられます《図表1》。
《図表1》人的資本経営と健康経営との関係 (概念図)
経済産業省 「人材版伊藤レポート 2.0」(2022年5月)、健康経営優良法人認定事務局 「健康経営ガイドブック」(2025年3月版)など各種文献をもとに作成
※1 経済産業省 ホームページ 「人的資本経営~人材の価値を最大限に引き出す~」 より
※2 経済産業省 ホームページ 「健康経営」より
「人的資本可視化指針」の改訂を受けて健康経営で意識することは?
人的資本経営への投資家の関心や社会的な要請が高まっている今、人的資本経営と健康経営は一体で推進することが求められます。
直近の人的資本経営に関する動きに着目すると、2026年3月の「人的資本可視化指針」の改訂は見逃せません。
「人的資本可視化指針」とは、企業が人的資本の価値や人材戦略に関する情報を投資家などのステークホルダーへ効果的に開示・伝達するためのガイドラインです。
内閣官房の非財務情報可視化研究会での検討を経て2022年8月に策定・公表され、2026年3月に改訂されました。
改訂版は、経営戦略と人材戦略の連動に向けて、国際的な開示基準を踏まえた具体的な考え方や検討フローを提示しています。企業は、経営戦略に連動した人材戦略の策定・実践と、進捗や効果を示すのに適切な指標の設定と開示、ステークホルダーへの論理的な説明を求められます。
この改訂により健康に関しても、経営戦略に沿った人的資本投資としてどのような施策を行っているか、施策がどのように企業価値につながるかといった論理的な説明が一層求められます。
健康診断の受診率やストレスチェックの実施率などのプロセス指標だけではなく、アウトカム指標の可視化も欠かせません。
人的資本経営の一環としての健康経営では、プレゼンティーイズムやアブセンティーイズムの改善、エンゲージメントの向上など、健康投資のアウトカムについても経営指標と関連付けて継続的に測定・開示することが重要です。
企業が人的資本経営を行う上で「人的資本可視化指針」のほかに参照するのが一連の「人材版伊藤レポート」で、その動向も重要です。
2022年5月に公表された「人材版伊藤レポート2.0」では、従業員エンゲージメントを高めるための取組みとして「健康経営への投資とWell-beingの視点の取り込み」が追加されるなど、健康経営と人的資本投資との関わりについて言及されています。
また、経営戦略と人材戦略の連動の実現には、経営陣であるCHRO(最高人事責任者)が果たす役割が大きいとしています。CHROを設置していないという企業でも、人事担当の役員は多くの企業で設置しているのではないでしょうか。
人的資本経営と健康経営の連動については、担当部門が異なるなどの理由で社内の連動があまり意識されていない事例も見受けられます。こうした場合、施策の重複や役割分担の不明瞭さに繋がります。健康投資が他の人事施策と共に人的資本経営の中で経営戦略に連動して行われるよう、人事担当役員が役割を果たすことが求められます。
健康経営戦略マップの作成手順は人的資本経営の実施手順と整合的
健康経営を人的資本経営の中に位置付けて一体で取り組むにはどうしたらいいのでしょうか。そこで着目したいのが、健康経営戦略マップです。
健康経営の推進にあたって「健康経営ガイドブック」を活用し、戦略マップを作成している企業もあるのではないでしょうか。
戦略マップとは、従業員の健康保持・増進の取組みがどのように企業の経営課題解決や業績向上につながるかを可視化した設計図です。
健康経営の更なる推進を目的として2020年6月に経済産業省が策定した「健康投資管理会計ガイドライン」で作成が推奨されました。
約10年ぶりに大幅改訂された2025年公表の「健康経営ガイドブック」(健康経営優良法人認定事務局編)では、戦略マップにおける企業の経営方針と健康経営の推進方針の連動が強化されました。
この点は、経営戦略と人材戦略の連動が重要であることが指摘されている人的資本経営と共通しています。
また、人的資本経営では、持続的な企業価値の向上につながる企業文化は人材戦略の実行を通じて醸成されるものであり、人材戦略を策定する段階から目指す企業文化を見据えることが重要としています。2025年版の戦略マップで追加された「健康風土の醸成」という視点も人的資本経営と符合しているといえます。
このように、人的資本経営の実施手順と、戦略マップの作成に代表される健康経営の実施手順は整合的と考えられます。
戦略マップの作成に際しては、どのような健康投資を行うかというインプットからではなく、まずどのような経営方針なのか、経営方針に対してどのように健康経営を推進するのか、健康関連の目標としてどのようなアウトカムがあるのか、その実現のためにはどのような従業員の健康課題があり、どのような健康投資が必要かといった具合に、ゴールから逆算してストーリーを組み立てるのがポイントです。
人的資本経営の実施にあたっても同じアプローチで考えることができます《図表2》。
《図表2》健康経営と人的資本経営のステップの流れ

経済産業省 「人材版伊藤レポート 2.0」(2022年5月)、内閣官房・金融庁・経済産業省 「人的資本可視化指針(改訂版)」(2026年3月23日)、健康経営優良法人認定事務局 「健康経営ガイドブック」(2025年3月版)など各種文献をもとに作成
企業の公開情報や好事例集にはヒントが
人的資本経営では情報をステークホルダーに効果的に開示・伝達することが求められます。
そのため、健康経営を人的資本経営の一環として取り組んでいる企業の取組みは、企業の公開情報などから知ることができます。
なかでも、人的資本経営コンソーシアムが公表している好事例集に取り上げられていて、健康経営優良法人の認定や健康経営銘柄への選定がされた企業の取組みは参考になるでしょう。
例えば、コニカミノルタでは、人的資本を経営の中心に据え、その構成要素として明示的に健康経営を位置付けています《図表3》。
《図表3》コニカミノルタにおける人的資本と健康経営との関係
コニカミノルタ ホームページ より
戦略マップを作成して経営戦略と連動させながら健康経営を推進し、KPIとして中期経営計画でプレゼンティーイズムやアブセンティーイズムといったアウトカム指標を設定するなど取組状況を開示しています。
また、従業員の健康に経営陣が果たす役割は重要との認識から経営陣への施策も行っています。
具体的には、「レジリエンスプログラム」という産業医によるプログラムを社長を含む役員と役員候補に実施しています。
医学・脳科学・心理学的な観点から、人と組織が最高のパフォーマンスを出すために本質的に必要な要素について経営陣が学び、1年間かけて習慣化します。プログラムの実践により経営幹部の行動や価値観が変容し、組織間の連携や相乗効果が促進され、その効果の表れの一つとしてエンゲージメントスコアが向上したといいます。※3
健康経営の位置付け、経営戦略との連動や経営陣のコミット、企業価値向上につながる健康アウトカムの設定と開示という点から、健康経営を人的資本経営の一環として実践していると捉えられます。
※3 コニカミノルタ ホームページ 健康経営、組織・文化・DNAの構築より
自社に適した人的資本経営と健康経営の推進に向けて
このように健康経営や人的資本経営に関しては、ガイドラインや好取組企業の事例が公開されていて、要点やヒントが示されています。
そうはいっても、自社ではどうしたらいいのか、例えば、KPIの策定ではどのような手法で基準値を出すのか、経営陣をどのように巻き込むのか、ステークホルダーに納得感がある説明をするにはどうしたらいいかなど、健康経営の実務を担う部署では難しさを感じるケースは少なくないでしょう。
そうした場合は、コンサルティングサービスといった外部の専門家の力を借りるという選択肢も考えられます。
(SOMPOインスティチュート・プラス 上級研究員 大島由佳)
SOMPOヘルスサポートの『健康経営推進支援・健康経営コンサルティング』では、健康経営における貴社の独自の強みや課題を深く掘り下げ、現状把握からコンセプト設計、目標(KGI/KPI)の設定、そして実効性のある効果検証までを一貫して伴走支援いたします。
ぜひお気軽にご相談ください。
