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管理職が傾聴スキルを身につけるメリット・注意点

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1on1ミーティングの実施、エンゲージメントの向上、心理的安全性の高い職場づくりなどを目的として、職場においてさまざまな制度の導入が進んでいます。 しかし、制度を整えるだけでは、期待された効果が得られない場合があります。これらの制度の効果には、従業員間の対話の質、すなわち「聴き方」が大きく影響するためです。
聴き方、つまり傾聴は、単なるコミュニケーションのマナーではなく、従業員の成長とパフォーマンスを向上させる土台となります。本記事では、人事部が企画・運用に活用できるレベルで、傾聴の定義、メリット、身につけ方、誤解と注意点を具体的に解説します。

傾聴とは?

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■聞く、訊く、聴くの違い
「聞く」は、受動的に音・言葉が耳に入る状態です。「聞き流す」と言われるように、耳には入っているが内容は理解されていない場合も含まれます。
「訊く」は、情報を得るために問いを立てる行為。記者会見での質疑応答や、事実確認のためのやりとりなど、片方が知りたい情報を収集する場合に用いられます。
「聴く」は、相手の言葉だけでなく、感情・背景・意図まで含めて注意深く受け取り、確認し、理解を共有するプロセスです。
管理職に必要なのは、訊く力と聴く力のバランスです。業務進捗の確認(訊く)と、本人の意味づけ・感情の理解(聴く)を往復することで、聴き手と話し手の関係性が深まります。

■傾聴の構成要素
傾聴する時の基本的な態度は、「受容(評価せず事実と感情を受け止める)」「共感(相手の立場・文脈で理解する)」「自己一致(誠実さと一貫性)」です。これらは、もともとカウンセリング領域において重視された要素ですが、今では専門家だけでなくマネジメントスキルの一環として重視されています。
以下に、代表的な技術についてご紹介します。

アテンディング
相手に関心を向けている状態を指します。姿勢・視線・うなずき・相づちなどを用いて、相手に「話を聴いてもらえている」という気持ちを持ってもらう方法です。

オープンクエスチョン
「はい」「いいえ」では答えられないような、相手が自由に発言できる質問のことです。相手は発言内容に縛りがないため、話したいことを自由に話せる効果があります。ただし「なぜ」を繰り返すなど、問い詰める形にならないように注意しましょう。

言い換え、要約
話された内容を要約したり、言い換えたりすることです。「要するに、Aが起きて、Bだと捉えたのですね」など、聴き手の側が言い換えることで、話し手は「話を聴いてもらえている」「理解してもらえている」といった安心感を得ます。

リフレクション
話の内容から重要だと思われるポイントを、聴き手が繰り返すことです。聴き手が繰り返すことで、話し手は自身の置かれた状況について客観的に理解しやすくなります。

沈黙
会話の間に生まれる沈黙の時間を恐れずに、相手が次の発言をするまで聴き手が待つことです。相手が気持ちの整理をしたり、自分なりに答えを出すための時間を作ることができます。 これらの技術は書籍でも紹介されていますが、身につけるためにはロールプレイなどを通して慣れていくことをおすすめします。
傾聴スキルの研修について、ご関心がある方はこちら

管理職が傾聴スキルを身につけるメリット

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■意思決定の質が上がる
時間に追われる管理職にとって、聞きたい情報だけを効率よく吸い上げることも重要ですが、傾聴によって会話の深掘りをすることで、想定していなかった新たな情報を得られることがあります。特に相手の頭が整理できていない段階で「訊く」を繰り返してしまうと、話し手は回答しなければならないプレッシャーから、事実と異なる情報を伝えてしまうこともあります。
ここぞという場面では、傾聴を意識した対応をすることが精度の高い情報の取得につながり、打ち手の精度を高めます。

■信頼の向上
「話を聴いてもらえた」という体験の積み重ねは、話し手の安心感や満足感に直結します。コミュニケーションにおける安心感や満足感の向上は、管理職に対する基本的な信頼感の醸成につながります。

■課題に対する合理的な判断
傾聴によって事実と感情を分けて整理できるため、話し手の感情に寄り添いつつも、必要な論点を整理することができます。これにより、直面している課題の根本的な原因に早く到達でき、合理的な判断ができる可能性が高まります。

■人材育成につなげやすい
傾聴を通じて話し手は頭を整理し、物事を客観的に捉えやすくなる効果があります。これにより、話し手は無意識に避けていた要素について自然に目が向くようになります。
例えば、部下の目標未達について、管理職としては行動量の不足を認識してほしいとします。この場合、部下の認識が追いついていない段階で一方的に指摘するより、傾聴によって「できたこと・できていなかったこと」を整理していくうちに、行動量の不足が原因であったと自ら認識しやすくなる状況を作ることができます。

管理職における傾聴スキルの身につけ方

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傾聴スキルを身につけるためには、ある程度の傾聴研修を実施しておくことが望ましいです。

■研修の内容
研修を実施する場合、人事が大切にしたいのは「小さく始め、すぐ試し、続けて定着させる」設計です。難しい理論より、現場で使える行動を意識しましょう。
また、一度の研修ですべては身につけられないため、例えば「アテンディング」「要約」「オープンクエスチョン」などのスキルに絞って身につけてもらうなど、ポイントを絞る方が効果的です。ロールプレイを通じて体験し、出席者はその場で気づきを伝え合います。
傾聴スキルの研修について、ご関心がある方はこちら

■研修後の取り組み
研修後は、実際の1on1や日常の打ち合わせで使うことをおすすめします。一定期間後に再度出席者同士で集まり、感じたことや難しかったこと、周囲の変化などを伝え合うようにすると、内容が深まります。

■傾聴研修の導入が難しい場合
対象者のスケジュール調整が難しいなど、研修の導入が難しい企業では、専門の動画教材を用いた教育を行うケースがあります。研修のようにロールプレイはできませんが、導入ハードルが低いため、最初の一歩として活用してみてはいかがでしょうか。
(動画研修
「今日から変わる!円滑なコミュニケーション術」)

傾聴における誤解と注意点

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職場では、各人が担う役割や責任を抜きにしてコミュニケーションは進められません。ここでは、上司・部下間のコミュニケーションにおける、上司の傾聴に関するよくある誤解について記載します。

■よくある誤解と注意
・傾聴=同意ではない
傾聴を通じて相手への理解は促進されますが、同意することではありません。傾聴を通じて、業務における期待水準や守るべきことなどは明確に伝える必要があります。

・傾聴=何もしないことではない
聴いた上で、その内容をもとに必要な支援や意思決定を行います。傾聴だけで話し手が自己解決する場合もありますが、必要に応じて、管理職は傾聴で得た情報をもとに方向性を示す必要があります。

・アドバイスを急がない
部下の話す内容は、管理職が経験済みのケースであることが多いです。そのため、すぐにアドバイスをしたくなりますが、相手のペースを大事にして話を進めるようにしましょう。アドバイスに至るまでのプロセスを、傾聴を通じてやり取りすることが大切です。

・話し合いの時間管理
傾聴をすると話が続くことが多いため、深掘りしすぎて決められた時間をオーバーしないように意識しましょう。時間を守る意識を相互に持つことで、密度の高い時間を作ることができます。

・記録と視線のバランス
話し手は、聴き手の態度を気にすることが多いです。記録は重要ですが、PCばかり見て相手から目を離しすぎないように気を付けましょう。

・自身の疲労管理
聴き手が精神的にまいっていると、効果的な傾聴はできません。管理職自身の精神状態が整っていないときには無理に対応せず、少し時間を置いてから対応するようにしましょう。
関連記事「中間管理職のメンタルヘルス対策 人事はどう対応すべきか」←掲載後にリンク化

■傾聴の悪い例と良い例
・悪い例
上司:どうして遅れたのですか。計画が甘かったのではないでしょうか。
部下:……
上司:言い訳はいいので、次は間に合わせてください。

・傾聴を活用した例
上司:期限に出すことができなかったね。まず状況を一緒に整理させてください。
部下:はいA対応とBの承認待ちが重なって遅れました。
上司:ABの対応が重なり、スケジュールに影響したということ?(確認)
部下:その通りです。
上司:一番負担だった点はどこでしょうか。(オープンクエスチョン)
部下:特にBの調整が読めず、手が止まりました。
上司:(数秒待つ)わかりました。では、今週の最初の一歩として何を進めたいですか。(沈黙の活用提案)
部下:Bのタスクが残っているので、優先順位を見直し、計画を引き直したいです。

まとめ

制度だけでは職場は変わりにくいものです。効果を左右するのは日々の対話の質、すなわち管理職の「聴き方」です。傾聴は単なるマナーではなく、意思決定、信頼、合理的な問題解決、人材育成のすべてを下支えする経営・マネジメントの基盤です。ぜひ皆様の職場でも、傾聴について意識してみてはいかがでしょうか。
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